茨城県の所定内給与額は、20〜24歳の24万3,000円から50〜54歳の38万5,000円まで上がります。

月14万2,000円の上昇で、20代前半の約1.58倍です。

この数字から見えてくるのは、茨城県が単なる「東京の外側にある県」ではないということです。筑波研究学園都市の研究職、日立・ひたちなかの電機・機械産業、鹿島臨海工業地帯の鉄鋼・化学産業という、県内で完結する三つの稼ぐ仕組みがあります。

この記事では、公表統計の数字から出発し、なぜ茨城の賃金がこの形になるのかを具体的な地域名と産業構造から読み解きます。

この記事の結論

茨城県の賃金を支えるのは東京通勤ではなく、つくばの研究、日立の電機・機械、鹿島の素材産業です。県内に「稼ぐ仕事」を持つ一方、50代では大きな男女差も残ります。

賃金のピーク 38.5万円 50〜54歳・月額
20代前半からの伸び +14.2万円 約1.58倍
50代前半の男女差 15.8万円 男性−女性・月額

茨城県の年齢別所定内給与額

年齢階級所定内給与額(月額)
20〜24歳243,000円
25〜29歳281,500円
30〜34歳322,900円
35〜39歳357,900円
40〜44歳367,900円
45〜49歳366,400円
50〜54歳385,000円
55〜59歳380,200円
60〜64歳323,200円
年齢計340,600円

出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査(2023年)」、男女計・企業規模10人以上・産業計

30代前半までの伸びが大きく、50代前半でピークになる

20〜24歳から25〜29歳では月3万8,500円、25〜29歳から30〜34歳では月4万1,400円上がります。

30代後半以降は伸びが緩やかになり、40〜44歳の36万7,900円から45〜49歳では36万6,400円へわずかに下がります。その後、50〜54歳で38万5,000円のピークを迎えます。

60〜64歳は32万3,200円で、50〜54歳より月6万1,800円低い水準です。千葉県と同様、60代で役職や雇用条件が切り替わる影響が表れていると考えられます。

ただし、これは同じ人を40年間追いかけた統計ではありません。2023年時点の異なる年齢集団を比べた数字なので、個人の昇給曲線ではなく、各年代の職種・勤続年数・役職・企業規模の違いを含んだ平均です。

茨城の賃金は東京通勤者ではなく、県内事業所の力を映す

賃金構造基本統計調査は、事業所の属する都道府県別に集計されます。

統計の読み方

今回の34万600円は「茨城県民の平均月収」ではありません。茨城県内の事業所で働く人の所定内給与額なので、守谷・取手などから東京へ通う人の給与とは分けて考える必要があります。

守谷市や取手市に住み、東京都内の会社に通う人の賃金は、原則として東京側の事業所の統計に入ります。したがって、茨城県の34万600円という平均を、つくばエクスプレス沿線の東京通勤者が直接押し上げたと説明することはできません。

この数字に直接表れているのは、茨城県内の事業所で働く人に支払われた賃金です。

だからこそ、茨城の記事では東京との近さより、県内にある研究・製造・素材産業の厚みを見る必要があります。

つくば・日立・鹿島という三つの「稼ぐエンジン」

01

1.つくばの研究・専門職

つくば市には、産業技術総合研究所(産総研)、JAXA筑波宇宙センター、物質・材料研究機構(NIMS)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、筑波大学などが集まっています。

研究者、技術者、大学教員、研究支援職といった専門性の高い仕事が一つの都市に集中していることは、茨城県の大きな特徴です。

「茨城は製造業の県」という説明だけでは、つくばの国家的な研究開発拠点を見落とします。茨城の賃金を支える一つ目の柱は、工場ではなく知識と技術を売る仕事です。

02

2.日立・ひたちなかの電機・機械産業

県北の日立市は日立製作所の創業地で、周辺には日立グループや関連企業の技術・製造拠点が集積してきました。ひたちなか市周辺にも、日立建機、日立ハイテク、コマツなど電機・機械系の事業所があります。

こうした企業では、設計、製造技術、品質保証、設備保全、現場管理など、経験の蓄積が役割と賃金に反映されやすい職種があります。40〜50代の平均が高い背景として、県北の中核技術者・管理職層は重要です。

03

3.鹿島臨海工業地帯の素材産業

鹿嶋市・神栖市には、鉄鋼、石油化学、飼料、化学などの大規模事業所が集まる鹿島臨海工業地帯があります。

巨大設備を安定して動かすには、運転、保全、安全、品質を担う熟練人材が必要です。つくばの研究職、日立の機械・電機とは別の形で、鹿島は茨城県内に専門性の高い雇用を作っています。

つまり茨城県の賃金は、つくばの研究、日立の電機・機械、鹿島の素材産業という性格の違う三本柱で支えられています。

「TX沿線の高所得」は別の統計で見るべき話

守谷市やつくばみらい市では、つくばエクスプレスの開業後、東京へ通勤するファミリー層の流入が進みました。この動きは、世帯収入、住宅価格、人口構成を考えるうえでは重要です。

しかし、今回の賃金表は居住者ベースではなく事業所ベースです。

TX沿線の東京通勤者効果と、茨城県内事業所の給与水準を混ぜてしまうと、数字の意味を取り違えます。今回の34万600円は「茨城に住む人の平均月収」ではなく、「茨城で働く人の所定内給与額」です。

似ているようで別の話

TX沿線の高所得世帯は、世帯収入や住宅価格を考えるうえでは重要です。しかし、この賃金表を説明する主役は、県内の研究機関・工場・事業所です。

50代で月15.8万円まで広がる男女差

年齢階級男性女性女性÷男性
年齢計380,300円270,400円71.1%
20〜24歳253,200円231,900円91.6%
25〜29歳298,200円261,400円87.7%
40〜44歳401,800円288,900円71.9%
50〜54歳436,600円278,600円63.8%

20〜24歳の男女差は月2万1,300円です。ところが50〜54歳では、男性43万6,600円、女性27万8,600円で、差は月15万8,000円に広がります。

県内に研究・製造の高賃金職があっても、その恩恵が男女に同じように表れているわけではありません。職種配置、管理職比率、勤続年数、雇用形態などの差が、中高年になるほど大きく表れていると考えられます。

まとめ|茨城は「東京に稼がせてもらう県」ではなく、県内に稼ぐ産業を持つ

茨城県の所定内給与額は、20〜24歳の24万3,000円から50〜54歳の38万5,000円まで上がり、60〜64歳で32万3,200円へ下がります。

この数字を支える中心は、東京通勤者ではありません。

産総研・JAXA・NIMSなどが集まるつくば、日立グループを核とする県北の電機・機械産業、鹿島臨海工業地帯の素材産業。

茨城県は、研究と製造の両方を県内に持つ、自立型の労働市場です。

一方で、50〜54歳では男女の賃金差が月15万8,000円あります。

この統計から言えること

茨城は県内産業の力で50代まで賃金が伸びる県ですが、その伸びは男性の技術職・管理職に強く偏っています。「製造業王国」という看板の内側には、研究都市の高専門職と、解消されていない大きな男女差が同時に存在します。


📊 分析ノート

  • 使用統計:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(統計表ID:0003426933、e-Statで見る
  • 調査定義厚生労働省「賃金構造基本統計調査の概要」
  • 地域背景茨城県「茨城県のすがた」
  • 対象地域・年:茨城県、2023年
  • 指標:一般労働者の所定内給与額(月額)、企業規模10人以上、産業計
  • データ取得日:2026年6月6日
  • 注意点:所定内給与額には賞与と時間外手当を含みません。都道府県区分は労働者の居住地ではなく事業所の属する地域です。地域産業に関する記述は、公表値そのものではなく背景資料を踏まえた考察です。

※ 表の数値は上記統計データをもとに独自に整理しています。